マイクロアルゲミー(株)

社長の独り言
〔藻類培養におけるバイオ燃料〕
  (アプローチを間違えているのでは?)

原油価格が高騰するたびに浮上するのが、藻類によるバイオ燃料生産論です。
これは原油価格が下がるとそれと共に消えて行く議論なので、それ自体も今一つな感じです。
屋内屋外共に大量培養に携わって来た身としては、藻類によるバイオ燃料生産に対するアプローチ自体に疑問を持っています。

まずは第一の疑問ですが、現状の藻類培養からのバイオ燃料は採算が合うのでしょうか。
私が知るある海外の研究者は、空軍や巨大航空機業者から目がくらむような補助金を受けながら藻類からのジェット燃料生産の研究をしていました。
彼は研究者ですので研究論文が出せればそれで完結しますが、その彼自身バイオ燃料に関しては採算は合うはずがないと断言しておりました。

当然の話で、現在ある一定のマーケットを獲得している藻類由来のアスタキサンチンは、純品換算での価格が1Kg当たり100万円前後です。(2024.08月現在)
アスタキサンチンは現状ヘマトコッカスと言う藻類種から精製(乾燥バイオマス中3~5%含有)を行いますが、その生産工程は下記の通りです。
① 何らかのアスタキサンチン含有藻類種を選択し、何れかの培養システムにより特定種の培養を行う。
② 収穫後遠心分離にかけて、固液分離する。
③ 固液分離したウェットバイオマスを乾燥させる。
④ 乾燥バイオマスより溶媒等を使用し、アスタキサンチンを抽出精製する。
これだけの工程を経て入手したアスタキサンチンを、1Kg当たり(純品換算)100万円前後で販売しても素材販売だけでは黒字にする事が極めて困難なのです。

では藻類からバイオ燃料を生産する場合はどうでしょう。
現実的には基本上記と同じステップを踏むのです。
そして全てのステップでエネルギーを使い、マンパワーを使い、資材を使用します。
そしてKg100万円で売買される希少成分アスタキサンチンと同程度のエネルギーもマンパワーも資材も、そして大規模な施設建設も必要な藻類由来のバイオ燃料が果たして1L当たり数百円で販売可能でしょうか。
しかも、これまでに触れて来ましたように藻類培養自体が非常に不安定で、培養技術自体がまだまだ発展途上なのです。

残念ながら現在行われている藻類由来のバイオ燃料談義は、フラスコ内でのチャンピオンデータを、大規模化の如何に難しいかを無視して、そのまま巨大な掛け算をした事による産物と言わざるを得ません。
良く耳にする“藻類由来のバイオ燃料価格が〇百円まで落とす事に成功した!”と言う文言ですが、これは流石に公表するデータとしては如何なものかと思われます。
幾らひいき目で見積もっても、ゼロが最低三つから下手すると四つは足りません。

これは何を意味するかと言えば、これも良く耳にする“遺伝子組換えの技術で・・”又は “種の育種によって”何%の生育の増加やバイオマスの収量増加を成し遂げたと言うような発表ですが、桁が三つも四つも違う中でパーセントオーダーの生産性向上は正直何の意味もありません。

私の中で藻類からのバイオ燃料生産が採算が合うと言う想定が出来るのは、一パターンだけです。
それはフコキサンチンを始めとする高額希少成分の生産を行い、そこから出される藻類バイオマス残渣、要は残りカスからバイオ燃料生産を行う事です。
これであれば一般的に言えば産業廃棄物利用であり、抽出精製費用だけでバイオ燃料が生産出来ます。
恐らくこのスキーム以外には可能性は存在しないでしょう。
バイオ燃料を生産するために藻類を培養する、このアプローチが間違っているのだと思います。

しかし藻類培養の残差活用も、そう容易ではありません。
まず藻類残渣には非常に豊富な栄養分が残っているため、そのままサプリにも、家畜飼料にも、魚の陸上養殖飼料にも出来る優れものです。
それだけ価値のある残渣をわざわざ抽出工程を加えてバイオ燃料にする必要があるのか、と言う事です。

あともう一点は、これまで触れて来たように藻類を効率的に培養する方法論の問題です。
バイオ燃料の場合はどうしても量が必要である事から、安定培養が極めて困難である屋外のオープンポンド(池方式)で、それもとてつもない規模で行うような方式が提案されます。
しかし、小規模でも問題が満載の方式をそのまま巨大化させれば、その問題点も巨大化するだけで何の解決策にもなりません。

目を覆いたくなる提案としては、全体の嵩を膨らますためにオープンポンドの水深を現在の10~30cmを1mにすれば、と言うような暴論や、雑菌が少なく雨も降らない砂漠地帯に見渡す限りの池培養を展開すれば・・と言うようなものがあります。

何故上記の提案が暴論なのか、それは屋外培養を実際に現場で経験したものであれば恐らく誰でも分かる事です。

オープンポンドの水深は、ポンド自体は大面積でも水深はわずか数十センチです。
それはそれ以上深くすれば、ある程度の濃度になった際に藻類細胞が影を作り、光が中まで届かなくなるからです。
培養装置開発を事業の軸に据えて来た身としては、水深は10cmでも深過ぎるくらいです。
弊社の装置は屋内のLED仕様ですが、培養装置内では藻類細胞と光源は2.5cm以上離れない設計になっています。
それ故に全ての藻類細胞に満遍なく十分な光が供給され、その分培養濃度(=収穫量)も高められるのです。

砂漠地帯での培養は一見素晴らしいように見えます。
土地代は殆どタダですし、植物が育ちづらい環境ですから確かに雑菌も少ないでしょう。
そして雨も降らずに常に太陽が燦々と降り注ぐ。
しかし、少し考えればこの案が無謀極まりない事が分かります。
主な理由としては2つあり、一つは砂漠地帯での水分蒸発はどうするのかと言う事です。
良く言われるワインよりも水の価値の方が高い砂漠地帯で、水深30cmの池の水などはあっと言う間に蒸発してしまいます。

しかも砂漠地帯の太陽光は池培養には強すぎます。

もう一つは砂漠地帯の砂の問題です。
砂漠地帯でオープンポンドを展開すれば、水深30cmの池などあっと言う間に砂で埋まってしまいます。

それではその広大なオープンポンド全てに、冬場の野菜の露地栽培のように黒いビニールを張るのでしょうか。
それをすればそのカバーの上に砂が積もり太陽光は入らなくなってしまいますし、逆に太陽光を通せばそのビニールの内側はとんでもない高温となり、藻はすぐに死滅するでしょう。

藻類培養の培養方法探索は、常にあちらを立てればこちらが立たずの連続で、一朝一夕にベストな回答が得られる分野ではありません。
一回何らかの方法を試してダメであれば、その経験値を活かして次の方法を試す、それでもダメであれば、更にそれまでの経験値を活かして次の方法論を模索する。
机上やラボ内ではなく、実際の大規模培養の中での経験値を積み上げて行くしかない、と言うのが私の中での藻類培養の本質です。